救護・治療
Rescue and Treatment
Rescue and Treatment
奄美大島は、豊かな自然や高い生物多様性が評価され、2021年に世界自然遺産に認定されました。この地域にしかいない「固有種」が生息し、その多くは希少種や天然記念物に指定されています。
かつては奄美大島にマングースが外来種として生息しており、在来種の生息数が大きく減少していました。駆除事業等により、マングースの生息数は徐々に減少し、2024年にマングースの撲滅宣言が出されました。現在もマングース以外の外来種(ノネコ、ノイヌ、ノヤギ等)による在来種への影響があります。
マングースの撲滅等により、希少種や固有種の生息数は回復傾向にあります。その反面、野生動物が交通事故(ロードキル)に遭遇する件数も増加しています。
2024年には、アマミノクロウサギの交通事故確認件数は、121件にものぼりました。安全運転の呼びかけ、道路への侵入を抑制する柵の設置等の対策が実施されています。我々は、交通事故が起きてしまった際の対策として、負傷個体の治療技術の向上に取り組んでいます。
外来種の体内に生息する細菌、ウイルス、寄生虫等が「外来病原体」として奄美大島内にもちこまれ、在来種に影響を与えている事が明らかになってきています。
例として、アマミノクロウサギにおけるトキソプラズマ症、ケナガネズミにおける広東住血線虫症などがあります。当センターでは、救護個体を活用した外来病原体の研究を実施しています。
奄美野生動物医学センターでは、希少な奄美大島の野生動物の保護活動や学術研究に加えて、
講演会や人材育成を通じた教育啓蒙活動を展開しています。
現在も様々な野生動物に関する問題があり、傷病鳥獣の保護件数が増加傾向にある状況で、
現場の獣医師の果たす役割は重要度を増しています。
当センターは、奄美群島初の野生動物に特化した治療研究施設として、
島内外の関係機関と連携して事業を実施し、奄美の生態系保全に大きく貢献します。
※下線は、希少種または天然記念物
大腿骨頭切除術を実施した症例■原因
交通事故により保護されました。レントゲン検査では、大腿骨の脱臼がみとめられました。
■治療
大腿骨頭切除術を実施し、術後はリハビリを行いました。その結果、歩行可能になりました。
■転帰
大和村立アマミノクロウサギミュージアム Quru Guruにて生体展示されています。世界初のアマミノクロウサギの手術症例で、現在は交通事故を啓発する展示個体として活躍しています。
レプトスピラ症と診断された症例■原因
衰弱した状態で保護されました。血液検査では、肝臓と腎臓の障害がみとめられました。
■治療
抗生剤の投与、点滴治療を実施しました。
■転帰
保護翌日に死亡しました。死後の病理検査の結果、レプトスピラ症と確定診断されました。初めての感染事例として重要な知見を得ました。分離されたレプトスピラ菌株の性状解析により、感染源はリュウキュウイノシシである事が示唆されました。
交通事故による下半身麻痺の症例■原因
路上で動けないところを保護されました。下半身が全く動かず、腰部への大きな衝撃(交通事故)が考えられました。
■治療
消炎剤、ビタミン剤の投与により、障害された神経の修復を図りました。
■転帰
内科治療により、徐々に下半身の運動機能が改善し、正常に走行できるようになりました。保護地点にてリリースしました。
大腿骨切除術を実施した症例■原因
農道で動けないところを保護されました。レントゲン検査では、大腿骨の骨折がみとめられました。
■治療
骨折の整復手術を行いました。ケナガネズミにおける初めての大腿骨骨折整復術 となりました。
■転帰
3か月後には、枝に登れるまで運動能力が向上し、保護地点にてリリースしました。
広東住血線虫に感染していた例■原因
民家の庭先でふらついているところを保護されました。神経症状(眼振、斜頸)がみとめられました。
■治療
ICU管理下で、内科治療を実施しました。
■転帰
保護数日後に死亡しました。死後の病理検査の結果、広東住血線虫の脳内感染と診断されました。広東住血線虫は、もともと奄美には生息していなかった寄生虫と考えられ、クマネズミや外来カタツムリ等により島内に持ち込まれたと考えられます。ケナガネズミに対する病原性を引き続き調査中です。
リンパ腫と診断された例■原因
林道上で衰弱しているところを保護されました。
■治療
ICU下で、内科治療を実施しました。
■転帰
保護1週間後に死亡しました。死後の病理検査の結果、全身のリンパ腫と診断されました。リンパ腫のケナガネズミの症例は複数確認されており、その原因が調査中です。ケナガネズミのリンパ腫の診断法・治療法の確立を目指しています。
骨折整復術を実施した■原因
農業用の防鳥ネットに絡まり、保護されました。レントゲン検査では、翼の骨折がみとめられました。
■治療
骨折部の整復手術(ピンニング)を実施しました。術後は包帯処置により、患部の不動化を行いました。
■転帰
十分な飛翔能力まで改善し、保護地点にてリリースしました。
骨折整復術を実施した■原因
粘着式ネズミ用罠に絡まり、保護されました。暴れたことによる複数の創傷がみられ、レントゲン検査では罠の骨折がみとめられました。
■治療
全身麻酔下で、創傷の処置と骨折の整復手術を行いました。
■転帰
十分な飛翔能力まで改善し、保護地点にてリリースしました。
農業用ネットに絡まった■原因
農業用のネットに絡まって保護されました。重度の衰弱と脱水がみとめられ、発見まで時間がかかったと考えられました。
■治療
点滴、ICU管理、創傷の処置を行いました。
■転帰
数日後に死亡しました。不適切な農業用ネットの使用により、希少な鳥類が犠牲になっていることが改めて認識されました。





